ユーザーレビュー
The Nonfiction 
評判に違わぬノンフィクションの名著。
まず、題材がいい。戦後最大の誘拐事件といわれた吉展ちゃん誘拐殺人事件だ。
犯罪がうまれた社会情勢の描写もいい。高度成長期に入ってもなお、社会の底辺にこびりついた様に抜け出せない人々がいる。東京に住んでいるといっても愛着があるわけではない。既に、故郷は捨てている。正に流浪の民だ。なぜ、身代金50万円という常識では考えられない誘拐事件が起きたのかよくわかる。
捜査の描写もリアリティがある。現在、考えられる誘拐捜査の手法は、技術水準の低さや捜査員の未熟さにより殆ど採られていないといっていい。2年越しで自供に追い込んだのは、捜査員の執念と偶然にも近い日暮里の火事だ。そして、犯人との間合い。犯人は長くかけられた嫌疑で心が折れ、自殺さえ試みているが、取調べる側はこれに気付かない。押すべきか引きべきか駆引きしていないのに、別の理由で押せなかったりする。
両親が昔話してくれた「吉展ちゃん誘拐事件」がよく理解できた。それも、単に知識として頭に入ったのではなく、両親の隣で新聞やラジオでこの事件をリアルタイムに感じているような不思議な感覚に陥った。
面白さと時代 
まず、冒頭が魅力である。
流れるように進んでいく。取材、ストーリーテリング、深さ、何をとってもすばらしい出来だと思う。
しかし、一点、気になることがあった。
このルポの内容自体に「新しさ」を感じなかったのである。この本自体がずいぶん前に書かれたものだからなのはわかっているが、この本を読むことで「時代によってルポは古くなる」という思いをつよくしてしまった。
古くならないルポはないのだろうか。あるとしたら、どういうものなのだろうか。内容がすばらしいからこそ、「古典」を感じ、ついそう思ってしまった。
本田靖春の最高傑作 
吉展ちゃん誘拐殺人事件を扱った犯罪ドキュメントの古典である.徹底した現場取材,関係者へのインタビュー,文献や裁判資料の調査など,諸々のノンフィクション作品の執筆手法に一切の手抜きがなく,文面の隅々にまで緊迫感が横溢し,脚色にも不自然さがない.社会派ドキュメントの不朽の傑作として確立された作品である.著者自身が快作と言っている以上,私などが論評する余地はない.
事件の起きたのは昭和38年,吉展ちゃん誘拐事件は司法警察の捜査の範囲を超えマスメディアによる情報公開が容疑者検挙の重要な契機となった.犯人の身代金要求の会話がテレビやラジオを通じて公開される.今で言えば劇場型の展開を示した特異な事件であり,公権力よりマスメディアが大きな力を発揮し始めた時代であった.
現代では個人情報保護や人権最優先の観点から,この作品と同じような手法でのドキュメントを執筆することは不可能かもしれない.しかし,昭和51年当時にあっても本田靖春は同じような制約に直面したはずである.そうした関係者の抵抗を克服するだけの記者魂と熱意が,関係者の重い口を開かせたのであろう.吉展ちゃん誘拐事件は個人的には同時代性を感じるが,若い世代のためには90年代の社会を震撼させた事件の数々について,関係者の記憶が風化しないうちにドキュメント化してもらいたいものであるし,それを可能にする優れた筆力の作家の出現を待望する.
迫力あるノンフィクション、一気に読ませる! 
東京オリンピック開催の前年に発生した「吉展ちゃん誘拐事件」。警察にとっては度重なる初動捜査のミスによる痛恨の「大失態事件」。
正直、あまり期待せずにページをめくったのだが…。読みだしたら止まらない。途中で止められなくなり、一気に読んだ。綿密な調査に基づいた臨場感、犯人の生い立ちに肉薄する人物像の鮮明さ、迫力あるノンフィクションだった。
多くの人に読んでもらいたい! 
1963年3月31日、東京入谷で誘拐事件が発生する。誘拐された
村越吉展ちゃんは当時4歳だった。警察の失態により事件は最悪の
結末を迎える。犯人の手がかりもなく迷宮入りかと思われた事件だが、
刑事たちの執念が犯人小原保を追い詰めた!
事件発生から犯人逮捕、そして刑の執行までを、時代背景や犯人小原保の
生い立ちをからめて克明に描いたノンフィクション。
警察の誘拐事件捜査は、今では考えられないようなお粗末なものだった。
電話の逆探知も思うようにできない。犯人の声の録音でさえ、被害者の
父親がテープレコーダーを買ってきて設置するという有様だ。身代金も
まんまと奪われ、吉展ちゃんも戻ってはこなかった。後手後手にしか
動けない警察に対し、情けなくて腹立たしささえ感じた。犯人の小原保は、
何度も捜査線上に浮かんだ。それなのに、彼のアリバイを崩せない。
大金の出どころの話も嘘だと断定できなかった。犯罪が暴かれることは
ないと思ったのか、小原の態度にもふてぶてしいものがあった。
だが、刑事たちの執念が小原を自供に追い込む日がやってきた。その過程は、
生々しい迫力がある。誘拐を認めた時の描写は胸に迫るものがあった。
罪状から考えれば小原の死刑は当然だと思った。だが、彼の生い立ちや
死刑確定後の生活を知ったとき、複雑な思いにとらわれた。どんな理由が
あるにせよ、本当に人が人を裁けるのか?死刑を宣告し、人が人の命奪って
いいのか?短歌会「土偶」に投稿した小原の歌にも心を揺さぶられた。
小原の死刑執行後、短歌会を主催する森川がこう言っている。
人が人の罪を裁き処刑することの矛盾が、被害者が
加害者の処刑を当然と考える封建時代の敵討意識に
繋る思想の恐ろしさなどが、私の脳裏を次々に掠めて
やまなかった。
読み応えのある、濃厚な内容の作品だった。ひとりでも多くの人に
読んでほしいと思う。
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